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2013-06-07(Fri)

紫影のソナーニル 第1章 あらすじ その1

【プロローグ】

1902年、11月某日。電信通信記録より。
電話で話す2人の男女。
大学への入学が決まったと弾んだ声で報告する少女。それを祝福する男。
少女はためらいがちに話しかける。もう随分会っていない。あなたの顔を見たい、と。
男も応えた。
「僕も、君の顔を見たい」


1902年、12月25日。発見された記録音声より。
焦りを滲ませた男の声がする。
男は語る。
――ここは地獄だ。「彼」はきっと何もしないだろう。今、何かが出来るのは僕だけだ。
そして、最後に。
『……唯一の心残りは。
 愛しいエリシア、きみが、どうか――』
言葉が終わらないうちに、いかれた電子音がスピーカーから流れた。
機械が壊れてしまったらしい。録音はそこで終わっていた。



廃墟を旅する1人の女性がいた。
彼女の名前はエリシア・ウェントワース。
自ら設計、開発した自律歩行鞄、ジョンと共に、朽ち果てつつある町を歩いている。
温かなもの全てを捨ててきたと語る彼女は、決意を秘めて前を見つめる。






彼女が目指すのは、かつてマンハッタンと呼ばれた場所。
――1907年。あの会話から実に5年が経っていた。
ニューヨークは廃墟と化していた。










本の海。記憶の海。その中を落ちる、落ちる、落ちていく。
それがあたしの始まり、あたしのすべて。
……「あたし」? ううん、違う。「僕」だ。

僕は落ちていく。上から下へ。



そうして、おぼろげに思う。
僕の名前は何だっけ。確か……
『――リリィ』
耳元で囁く声がした。
そう、僕の名前はリリィ。
リリィ。自分でもそう呟いて――

――夢から覚めたリリィは、偽物の空の下、瓦礫の中にいた。
どうしてここにいるのかわからない。ここがどこなのかわからない。
リリィの中は空っぽだった。

その場から動こうとしたリリィは、何かの気配を感じてしゃがみこむ。
リリィの周りに高く積もった瓦礫の向こう。そこには異形がいた。
鉄のように軋む半巨人。それが、群れなして歩いている。

あいつらに見つかったら駄目だ。――そう囁く声が聞こえた気がした。
リリィの周囲には誰もいない。
それじゃあ、さっきの声は何? 自分の心の中の声?
きっとそうだろうと納得して、リリィは手近な瓦礫に潜り込もうした。

けれど、思わず立ち止まった。

感じた。

誰かがリリィを見つめている。

視線の主を探すリリィの瞳に、細身の人影が映りこむ。
背の高い影。男の影。

半巨人のことは忘れていた。
その影を見つけた瞬間、リリィは声を上げていた。引き寄せられるように影へ向かって踏み出していた。

あ、と思った時には遅かった。

半巨人たちの瞳がリリィを捉える。
軋む音を立てながら、リリィの元へ歩いてくる。

そこへ――



半巨人が杭打ち機で体ごと吹き飛ばされる。
自らを武装娼婦と名乗った彼女は、とてもよい匂いがした。



橋の上の街。その雑踏。
彼女はそこまでリリィを連れてきてくれた。
家は? そう尋ねる彼女にリリィは答える。わからない。
そんなリリィに彼女はひとつ忠告をして。可愛いリリィ・ザ・ストレンジャーと言って。



リリィはわざと話をそらす。
彼女は何も知らないリリィにこの世界の事を教えてくれた。
そして、最後に言った。
半巨人に連れ去られるとこうなるよ、と。鋼鉄と化した彼女の右手を示して。

彼女の部屋に入れられて、リリィは彼女と言葉を交わす。
薄いけれど温かな紅茶。初めて食べるチョコレート。
リリィはほっと息をつく。

その一方で、リリィは気づいてしまう。
どこから来たのか。自分が一体何者なのか。そういったことのすべてを覚えていないことに。

覚えているのはひとつだけ。
“あたし”は、あの、紫の空の果てへ――。

――違う。“僕”だ。“あたし”じゃない。
紫の果ては“あたし”の行き先。“僕”には何の関係もない。
そう思って、リリィは果ての事を口にしなかった。

何も覚えていない。そう言うリリィに彼女は教える。
ここの住人は5年より前の事はあまり覚えていない。
5年前に何かがあって、ニューヨークは地下に落ちてしまった。それがここなのだと。
そして、告げる。
「ようこそ、ヴェラザノ海峡橋へ。可愛いリリィ・ザ・ストレンジャー。
 あたしはミリア。武装娼婦のミリア・ストーク。
 ――地下世界へ、ようこそ」



同刻、地上。
エリシア・ウェントワースはヴェラザノ海峡に到着していた。



廃墟と化している橋を見て、エリシアは思う。
5年前、ニューヨークに住む300万の人たちが一夜にして消え去った時のことを。その後の世間の動きを。

今、人々の記憶からニューヨークは風化しつつある。
真実は何一つ明らかになっていないのに。

橋の向こうのマンハッタン島をエリシアは見据える。
その果ての果てへ思いを馳せながら。

と、不意にその視界を奪う光があった。廃墟からの反射光。
エリシアはその光の元を確かめに行く。
果たしてそれは――

それは――

大きな姿見だった。

滅茶苦茶になってはいるが、ここは女性の部屋だったのだ。エリシアはそう認識する。
そして、もうひとつ。鏡に映った自らを見て認識することがあった。
女の顔。女である自分。

しかし。



静かに否定する。
どこか自らに言い聞かせるようにして。



同刻、地下。
ミリアに留守番を頼まれたリリィ。
けれども、リリィは外に出たかった。



脳裏にミリアと出会う前に見かけた人影の事が思い浮かぶ。
細身の背の高い影。男の影。
そうだ、外へ出れば、あの影をもう一度見られるかもしれない。
そんな言い訳を胸にリリィは雑踏の中へ踏み出していく。

ヴェラザノを歩くリリィ。
道行く中には、体のほとんどがミリアの右腕のような鋼鉄になってしまった人もいる。
リリィは自分の体を確認していない。それでいいとリリィは思う。
僕はこのままでいいのだから。僕は「僕」のままでいいのだから。
だから、服を脱いで体の確認をすることはない。体のことなんてどうでもいい。

それでも、紫の空の果てを見た時に、リリィの口は自然と動いていた。



「僕、あたし……。
 あそこ、に……」



『あそこに?』
誰かが耳元で囁いた。涼やかな若い男の声。






リリィはとっさに振り向いた。そこには誰もいなかった。
今の声。どこかで聞いたことがある。
一体、どこで? 声の主を探すリリィ。

そこに、
「ひひ」
笑い声が聞こえた。



それは猫だった。いいや、人?
マオと名乗る彼女は笑う。小ばかにしたような物言いで。
不思議とリリィは嫌な気持ちを覚えない。
彼女は笑っているけれど、リリィを軽蔑しているわけじゃない。

マオは語る。
「ねえ、リリィ。あんたは黒づくめの殺し屋を知ってる?」
そして教える。
その殺し屋が、ミリアを狙っているということを。



ミリアは回想する。自らの生い立ちを。
すべて、すべて憶えている。故郷のこと。今の仕事を選んだ時のこと。
――ただひとつ。思い出せないものがある。
共に愛の言葉を囁いた“誰か”のこと。それだけが思い出せない。まるで、記憶の中から抜け落ちてしまっているかのように。

部屋の中。ミリアを抱いているのは、体のほとんどが鉄と化した男。
常連のはずの彼の名前を、ミリアははっきりと覚えていない。

男は語る。
「これは、地下の詩。
 これは、地下の寓話。
 誰にも知られない、紫色の言葉」


いきなり、何を。
そう思いながらも、ミリアは応えていた。
自然に、無意識に、唇から流れ出る。
「これは、地下の詩」

そうして、交互に紡ぎだす。

「これは、地下の寓話」

「誰にも知られない、紫色の言葉」

「誰にも見られることなく軋む橋。
 誰にも気づかれずに、崩れていく」

「誰にも、知られずに。崩れて。
 ひびわれて。ひびわれて」

「押し潰されて。
 強く、強く、強く、強く」

「圧壊して、倒壊して、すべてを崩す。
 それは力。それは、大いなる」




ミリアに合わせる男の言葉が、

「大いなるものだと?」

 ――時刻、0時21分。


なぜか、ふたつ重なった。

「あれが、そんなものであるものか。
 ヴェラザノの住む全員がそれを否定する」

 ――地震でもなく、爆薬でもなく。
     ヴェラザノの自壊が始まった。



そのあとも、2人はお互いの肌と鉄を重ね続ける。
時折、ミリアは何かを思い出しかける。けれど、どうしてもその記憶は形にならない。

そんな中で、ミリアは尋ねた。

「今日は、さ……。
 あたしを、殺そうとはしないの?」

ミリアを殺そうとしている殺し屋。
それはこの男だった。常連客で、ほとんど鉄となっているこの男。

男はミリアの名を呼ぶ。何度も何度も。
ミリア。ミリア、ミリア。
男は嗚咽する。
私はもう狂っているんだ。
そして、誓いの言葉のように囁く。

「いつかお前を殺してやる」

ミリアは答える。
「まだ死にたくないから、襲ってきたら容赦なく返り討ちにするよ」

囁きあう二人。睦みあう二人。
その姿はまるで恋人同士のようだった。



雑踏の中。誰かに呼ばれたような気がしてリリィは振り返った。
そして見た。
路地裏に立つ背の高い影。それは上を見ていた。3階にあるミリアの部屋を見ていた。
マオの言葉が蘇る。ミリアを狙う殺し屋の話。
身をひるがえして姿を消したその影をリリィは追う。

追って、追って…

辿り着いたのは、1輌だけしかない不思議な地下鉄。
中に入ると、そこは部屋になっていた。
ふわふわのひらひらの部屋に、リリィの頬が自然と緩む。





違う、僕は男の子だ。
だから、こんな女の子のための部屋は僕には必要ないものだ。
いらない。そう、いらないんだよ。



そう思う反面、リリィの手はふらふらとクローゼットに伸びていた。







着てみたい。
そんな思いが湧いてくる。



違う、違う。僕は男の子だ。
――リリィは自分に問いかける。
そんなこと、誰が決めたの? 女の子じゃなくて男の子だと、一体誰が決めた?
――僕だ。
そう、僕が決めたんだ。
だから、これを着るのは僕じゃない。
僕じゃないんだ。




その時。
声がした。



息をのむ。
あの声が。涼やかな若い男の声が聞こえたと思ったら、すぐ後ろに「彼」がいた。
見知らぬ青年。リリィは恐れる。
けれど、それは彼が音もなく現れたことにでも、いつのまにか背後にいたことにでもなかった。


リリィが恐れたのはもっと別のこと。


こいつは、見た。
僕が、この服を持っているのを!


違う、違うよ。僕はこんな服欲しくない。
だって、これは女の子の服だもの。僕は男の子だ。女の子じゃない。
――女の子じゃないんだ。


地下鉄から飛び出した。
1輌だけの地下鉄から、あの「彼」から逃げ出した。
恐れと混乱とがリリィの胸を満たしていた。



街中へ戻ったリリィはミリアに呼び止められた。
帰る場所がないならうちへ来ない? ミリアのその言葉にリリィは頷く。



ミリアと2人、連れだって帰る。
ミリアは語る。地下世界にはおとぎ話がある。それは詩とも寓話とも呼ばれるものだと。

「これは、地下の詩。
 これは、地下の寓話。
 誰にも知られない、紫色の言葉。

 誰にも見られることなく軋む橋。
 誰にも気づかれずに、崩れていく。

 誰にも、知られずに。崩れて。
 ひびわれて。ひびわれて。

 押し潰されて。
 強く、強く、強く、強く。

 かたちなんて呆気ないもの。

  ――時刻、0時30分。
    ヴェラザノは、ひとりでに自壊した。

 かんたんに壊れるし、
 かんたんに崩れてしまう。

  ――物質的崩壊と同時に、
    形而上的崩壊が始まっていただろう。

 みんな、みんなそう。
 かたちなんて、本当に呆気ない。

  ――あらゆるものが、かたちを保てない。
     崩れてゆく。

 誰にもどうしようもない。
 たとえば、このヴェラザノだってそう。

  ――皮肉なことに、人類史上、最も強固な橋でさえもが。

 いつか崩れて、
 いつか消えてなくなる。

  ――崩壊していった。
     圧壊していった。

 けれど……

 けれど、崩れないものがあるなら。
 私は生きる。今も。今も。

 愛しい彼は既に死んで。
 かわいそうに、想い半ばで倒れてしまって。
 重い瓦礫の下敷きに。

 だからわたしはただひとり。
 ひとりきり。
 ひとりきり。

 たったひとりで生きていく。
 寂しさの中で。生きて。生きて。生きて。

 そして死んでいく。
 やがて死んでいく。
 わたしも、あなたも、誰も彼も。

 まるで東洋のおとぎ話みたいに、
 生まれ変わることが、あったとしても。
 死んでいく、同じこと。

 誰も彼も。
 寂しさの中で、死んでいくだけ。

 ……では、“寂しい”のは誰?

 かわいそうな彼?
 それとも。それとも、私?

 ――寂しいのは、誰?」


リリィにはわからない。
中でもわからなかったのは「寂しい」という言葉。
「寂しい」って、どういうことなの?
ミリアの顔を見上げる。綺麗だけれど、胸に詰まるものを感じる横顔。

ミリアは寂しいの? その問いに、ミリアは答えた。

思い出せないのが、寂しい。



前に、誰かを好きだったはずなのに。もう顔すら思い出せない。
いつから思い出せなくなったのかもわからない。
どこか他人事のように微笑みながらそう答えた。



――夜。



1人の男が立っていた。
彼はうごめく鉄の半巨人たちを嘲るように見下ろして、右手の爪で紋様を描く。
彼は、獣人は叫ぶ。半巨人たちに向かって。

――お前たちの枷を外してやる!



そこへ、1人の男が声をかけた。



獣人の表情が変わる。厄介者が来たとでもいうように。
ルチアーノ。それが彼の、右腕が鉄となっている男の名前だった。

2人の会話は、やがてある男の話題へと移る。
殺し屋気取りの気狂いの鉄。その男を、獣人はそう評した。
ルチアーノは語る。
あいつはもう鉄になる寸前だ。だからこその、惚れた女への筋。使命感というやつが、あいつを突き動かしているのだろう、と。

そんな2人の眼下で、半巨人たちは進んでいく。
獣人が描き出した“しるし”を喰らって。
まっすぐに、人の住む明かりへ。――ヴェラザノ海峡街めがけて進んでいく。




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