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2013-06-07(Fri)

紫影のソナーニル 第1章 あらすじ その2



――橋上の街、ヴェラザノは叫喚に陥っていた。
半巨人たちが闊歩する。鉄の軋む音を響かせて。

黒い半巨人たちに連れ去られると、体を鉄にされてしまう。
それは最早、ヴェラザノの人々にとっての常識だった。
だから人々は逃げ惑う。泣き叫ぶ。
物言わず、ただただ歩き続ける半巨人たちから……。

アパルトメントの一室で、ミリアは杭打ち機を携えていた。
定期的に現れる半巨人を撃退することは、彼女たち武装娼婦の仕事のひとつだった。
リリィは不安げにミリアを引き留める。
大丈夫。ミリアは優しくそう言うが、それでもリリィの不安は治まらなかった。
思い出す。今日、見たこと、聞いたこと。ミリアを狙う殺し屋の話。アパルトメントを見上げていた黒い影。

結局、リリィはミリアを見送った。
殺し屋のこと。命が狙われている今、ミリアは1人にならない方がいいと考えていたこと。
そういったことを、何一つミリアに伝えられないまま。

――伝えることすらできなかった。
リリィは無力感に苛まれる。
僕じゃ、僕じゃ何もできない。何も…。



『できるとも』



リリィのすぐ後ろで声がした。


振り返ると、そこには彼がいた。




今度こそリリィは見た。彼が現れる瞬間を。
彼は、リリィの影から滲み出てきていた。
リリィの影から“かたち”を得ていた。

リリィは怯える。その小さな胸に浮かぶのは、あの1輌だけの地下鉄でのこと。
女の子の服を体に当てていたリリィを、彼は見ていた。

――こいつは僕を否定する。僕に“あたし”を思い出させる。

彼が口を開く。
「自己紹介が遅くなったね。
 大丈夫、そんなに怯えることはない」
優しい言葉とは裏腹に、機械のように冷たい口調。
彼はリリィに手を伸ばす。そっと、その頬に手を当てる。

「僕は、A。
 リリィ。きみの味方だ」

味方。その言葉にリリィは戸惑う。
僕は何も覚えていない。知っている人間なんて、ミリアの他には誰もいない。
なのに、僕の味方だって?
彼は何を言っているんだろう。

それでも、リリィはいつの間にか彼の言う事を聞き入れていた。

彼は、Aは語る。
自分はミリアを狙う殺し屋ではない。
それに、地下世界の人々を鉄に変えるのは半巨人たちではない。彼らを迎え撃ちに行ったミリアが鉄に変わることもない。
だから、彼女を心配することはない。
リリィにそう説明した。

リリィは何だか引っかかる。
ミリアを心配する必要はない。
Aの言う通り、半巨人たちにそういう力がないのならそうなのだろう。彼女が鉄になる心配はないはずだ。
だが、その部分を説明するときにAは言った。
「本来的には」心配する必要はない。2回もそう言っていた。

「本来的には」?
ならば、今はどうなのか。

問い詰められて、Aは答える。
半巨人そのものに人々を鉄へ変える力はない。
けれども、彼らは定期的に道標となる。地下世界の人々を鉄に変えるものを運んでくる。

「本来ならば」今はその時ではないはずだった。
「本来ならば」今、ミリアが外へ出て行っても何の問題もないはずだった。
しかし、誰かが何かを仕組んだことでその法則が歪んでしまった。

半巨人の向こうから、あれがやって来る――






ミリアは杭打ち機を振るう。半巨人たちが壊れていく。
彼女だけではない。警官や他の武装娼婦たちも、皆同様に武器を手にして戦っていた。

ふと、ミリアは視線を感じる。
ああ、あの殺し屋さんかな。根拠はないけどそう思う。
でも、なんだろう。今日はなんだか焦っている?
ミリアは振り返らないまま、殺し屋に言葉をかける。


その時だった。
ミリアは見た。


黒い半巨人の群れを圧壊させながら迫りくるものを。
白きものを。


殺し屋が叫びながら飛び出してくる。
ミリアと白きものの間に立ちはだかる。
その鋼鉄の体が、杭打ち機など比ではない威力で砕かれてゆく。

そして、ミリアも砕かれてゆく。とっさに出した右腕から砕かれてゆく。

――その感触を彼女は知っていた。

思い出す。
5年前。彼女は誰かと一緒にいて。



「……思い出した……」

そう呟いた瞬間、彼女は抉り取られた。
彼女自身の記憶と共に。




同刻、地上。



エリシアは廃墟の中にいた。

――5年前の≪大消失≫。
ニューヨークを無人の廃墟としたその事件で、一体何があったのか。
それを知る人は誰もいない。合衆国の公文書館にすらその記録は残されていない。

こうして現場を見てみてもそれは同じだった。
少なくともエリシアが見る限りではそこには何の痕跡も残されてはいなかった。軍による処理の後すらない。

そう、何も――。

――?

影と光の狭間に何かがある。
埃に塗れて割れかけた何か。

「これは……」

それは、陶片だった。
元はふたつのティーカップだったと思しき欠片。

廃墟の郵便受けにあった名前はひとつだけだった。女性の名前、ひとつだけ。
なのに、ここにあるのはふたつの欠片。

――突如として流れ込んでくるものがあった。

「あ……」

エリシアは胸を押さえる。
その場にうずくまりそうなくらい強い強い感情の奔流がエリシアの中で渦巻いていた。

やがて。

「ここにも……」

エリシアは震える指先で破片を拾う。

「この部屋にも、誰かが……」

拾った破片を胸に抱く。

「……ここにも、誰かが、いた」

そして、そっとまぶたを閉じた。

そのふたつの破片がどういう意味を持つものなのか、エリシアにわかるはずもない。
ただ、郵便受けにあった名前は女性のものだった。
きっと、この破片はこの部屋の主だった女性ともうひとりの“誰か”のもの。そう。きっと愛する“誰か”のもの。
エリシアには不思議とそのことが理解できた。

陶片のうち、緑のものには名前が掘りこまれていた。
赤のものには何もない。けれど、エリシアは郵便受けの名前を見たから知っていた。

わかるのは名前だけ。
顔も素性もわからない。
それでも、ここには誰かが暮らしていた。愛する人とふたり、ティーカップを揃えて。

「……寂しい、ですって……?」

エリシアは呟く。

「寂しいのは……。
 ……わたし、だ……」



エリシアは自覚する。

――捨てられない。
――捨てられるはずが、ないんだ。

――わたしは。どうしたって女で。
――捨てられない。捨てきれない。
――あの日にあなたに恋したエリィのまま。

――寂しい。寂しいよ。
――ね。アラン。わたしのアラン。





同刻、地下。
朝が来ていた。
リリィは戸惑いを隠せない。さっきまで僕はあの男と。Aと話をしていたはず。
それで?
いつ朝が来たのか。いつミリアが帰ってきたのか。リリィにはわからなかった。
あり得ない。そんなことはあり得ない。

ミリアが声をかけてくる。リリィの名前を思い出そうとしながら。
何だか名前が出てこなくて。そう言い訳する彼女の瞳に浮かぶものを、リリィは見た。感じ取った。

ミリアは。
ミリアは、僕のことを覚えていない。
名前だけじゃない。僕のことを忘れている。
昨日、僕と会って話をしたこと。僕の手を引いてくれたこと。ぜんぶ、忘れている。

ミリアはリリィに言葉をかける。薄くて温かい紅茶を淹れてくれる。チョコレートを渡してくれる。
そのすべてが、昨日と同じだった。

耐え切れなくなって、リリィは外へ駆け出した。
そして、出会った。
体のほとんどが鋼鉄と化したあの男に。



男は語りかける。
お前は覚えているのか。さすがはストレンジャー、と言ったところか。
すでに狂ってしまったこの身でも、お前に言葉を残すことはできる。ミリアに言葉を残すことはできる。


「これは、地下の詩。
 これは、地下の寓話。

 誰にも知られない、紫色の言葉。

 聞くがいい、旅人よ。
 我らの地下の言葉を。詩を。

 狂人の寓話を。真実の欠片を。
 寂しさに狂う街の声を。

 ヴェラザノの声。
 それは、軋み、砕かれる声か。

 ――ヴェラザノは砕けた。
    5年前。1902年、あの日に。

 何かが砕かれていく声だ。
 何かが砕かれていく音だ。

 ――局地地震など存在しなかった。
    爆破工作など存在しなかった。

 何かが、それをしてしまった。
 ヴェラザノの街に、寂しさだけ残して。

 ――ただ空間が崩されただけだ。
    ただ空間が砕かれただけだ。

 街は、砕かれた……。
 ――あの、白きものに……。

 砕かれたが故に。
 崩れ去ったが故に。
 何も残らぬ寂しさだけが残っている。

 誰も逃れることはできない。
 永遠に、この寂しさと共に在る。

 それが地下の詩。
 それがヴェラザノの詩。我らの詩。

 繋がろうとも消えることのない。
 寂しさだけが。罪として」


リリィはその意味のほとんどを理解できなかった。
それなのに、この男はリリィに語った。寂しさの詩を。
そんなこと言われても困るのに。僕にはわからないのに。
リリィは耳を塞ぎたくなる。だが、その胸の奥には残ってしまっていた。男の言葉。男の詩。

地下世界たるここが何かを知るがいい。
5年前に何が起こったのかを知るがいい。ただひとりの彷徨い人。
そう言った後、彼の言葉はひび割れ始めた。



――リリィにだけ届く声が聞こえる。Aではない誰かの声。





『擦り切れているのさ。
 真実に辿り着いた彼でさえ。
 最早、彼を成すものは僅か』




誰かが嗤っている。誰かが嘲っている。
ほとんど鉄と化した彼を見て、誰かが。




「……リリィ!」
ミリアの声がした。
彼女はリリィを見て、ほとんど鉄の彼を見て、その間に立ちはだかった。
ミリアは男に攻撃的な視線を投げかける。挑発的な言葉を投げかける。
男は乾いた笑い声をあげた。先ほどまでひび割れていた言葉が、男の自我と共に戻りかける。
そうだ、俺はお前を殺すんだ。それが唯一の救いだから。

救う。そう語る男にミリアは返す。
鉄になるなら1人でなれ。あたしはあんたの名前すら知らない。もうこれ以上付きまとわれるのは迷惑だ。

ミリアの言葉に滲む敵意にリリィは耳を塞ぎたくなる。
リリィはふたりのことを何も知らない。
けれど、ふたりの声を聞いて、ふたりの想いを感じることはできた。
ミリアも男も、本当は同じことを言っている。

ふたりの会話は続いている。
傷つけあう言葉を、相手を拒絶する言葉を重ねている。

だが、リリィの耳にはその声がふたつに聞こえた。
聞こえる声はひとつなのに、ふたつの言葉が重なって。


「……迷惑、なんだよ」

 ――寂しいんだ。

「……私が、を、殺せ、ば……。
 お前、は救われる……。
 お前、を……俺は……。
 殺す……しか……」

 ――私は、お前を守れない。……守れなかった。
    それが、どうしようもなく。
    ……どうしようもなく、寂しかった。


リリィは胸を押さえる。
胸の中に強く、強く湧き上がるものがある。


「……うるさいんだよ!」

 ――……寂しいんだよ。

「救われる? そんなの知るか!
 あたしは、あたしで生きていくだけだ!」

 ――思い出せないんだよ、あたしは。
    だからひとりでいるしかないじゃないか。 

「あたしはあたしでいたい!
 ひとりでいいんだ!」

 ――あたしはあたしのままだ。
    だから、ひとりなんて無理なんだよ。

「……心中なんて、ご免なんだよ。
 あんたのことなんか、知るもんか」

 ――……寂しいんだ。寂しいんだよ。
    あんたのこと、思い出せないのが。

「知らないね。あんたのことなんか。
 あたしを殺そうとする、黒い殺し屋さん」

 ――ごめん。ずっと思い出せずにいる。
    それがたまらなく寂しくて。

「消えてよ。
 できないなら、あたしが壊す」

 ――あんたは……。
    あたしの……何なの……?

「お前を……殺す……。
 ミリア……今、俺、が……!」

 ――寂しいんだ、俺は。
    崩れるしかなかった俺は。ミリア。
    だから、俺はお前を放ってはおけない。

「殺す? 殺すって、あたしを?
 はっ。いつもいつも失敗ばかりのくせに。
 一昨日も、その前もそうだ」

 ――思い出させてくれないなら、あんたが殺してくれよ。

「殺してみなよ。
 できるもんならさ――」

 ――寂しいままよりは、ずっとマシさ。

――ふたりが得物を振り上げる。

リリィは迷わず飛び込んでいた。手の平が男のナイフで浅く切れる。

「ふたりとも……!
 さっきから、聞こえてるんだ!」

声を張り上げる。
ミリアが戸惑ったような声を出して。男が邪魔をするなと言って。
それでも、リリィはふたりの間で叫ぶ。

「僕には、聞こえるんだよ!
 聞こえてるんだ!
 ふたり、とも……何度も、何度も……」

「なんで聞こえないんだよ!
 ふたりとも、何度も何度も叫んでる!」

「寂しい、って――」

――けれども。
リリィのその言葉は最後まで届かなかった。

なぜか?
この地下世界がそういう風に定められてしまっているから。
誰に?
それは、紫の果てに坐するもの。この地下世界を作り出したもの。

リリィの影から声がする。
機械のように平坦な口調で彼が告げる。

『白きものは来る』
『断罪のために』




その頃、遠い空の果てでは誰かが嗤っていた。
それは地下世界の主の声。それはすべてを嘲笑うもの。
自ら作り出した地下世界を見つめ、その中から選び、嗤うもの。

――選ぶ。何を?
崩れ去るものを。砕け散るものを、「彼」は決める。
地下世界のすべてを「彼」が決める。

「彼」は定めていた。この地下世界における罪を。
それはすなわち人の情。「彼」が最も解せないもの。

その名前を知るものはもういない。
いたとすれば、5年前のニューヨークに1人だけ。
しかし、彼はもう存在しない。この地下世界にすら存在しない。


「彼」は告げる。
自ら定めるところの、罪深きものたちへ。



――ヴェラザノに白きものが近づいていた。



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